ロシア軍、主力戦車をT-90M,T-80,T-14の3つに絞る

T-90M (UVZ)

ロシア軍はウクライナ侵攻により、最大10,000両を超える戦車を失ったとされています。これにより、これまで保管されていたソ連時代の旧式戦車の稼働可能在庫もほぼ尽き、新規生産の強化が喫緊の課題となっています。現在、ロシア国防省は、主力戦車としてT-90M、T-80、T-14の3車種に注力する方針を固めたと報じられています。

ウクライナ侵攻前のロシア陸軍は、約2,700両の主力戦車を配備運用していました。その主力はT-72、T-80、T-90で構成され、特にT-72戦車シリーズの近代化改修型が約半数を占めていました。世界最大の戦車部隊を誇っていたロシア軍でしたが、そのほとんどをウクライナ侵攻の最初の1年間で失うという壊滅的な打撃を受けます。

この危機的状況に対し、ロシア軍は予備役として保管され、倉庫に眠っていたT-72やT-80戦車をオーバーホールし、戦線に復帰させるという緊急措置を取りました。しかし、無謀な突撃や稚拙な戦術が重なり、これらの補充戦車も急速に枯渇してしまいます。最終的には、T-62、さらには戦後初期に開発されたT-54/55といった旧式戦車までもが倉庫から引っ張り出され、戦線に投入される事態となりました。ロシアは1万両を超える戦車を保管しているとされ、無尽蔵に供給できる能力があると思われていましたが、実際には保存状態が劣悪なものが多く、実際に戦線に投入できる車両は限られていたことが明らかになりました。

T-90Mがロシア戦車部隊の顔に

mod russia

このような状況を受け、ロシア軍は2023年頃から新規戦車の生産に本格的に注力し始めます。その中で最も優先されたのがT-90M戦車です。ロシア唯一の戦車メーカーである「ウラルヴァゴンザヴォード(UVZ)」は、侵攻前の2022年までに生産したT-90M戦車は推定60~70両に過ぎなかったにもかかわらず、翌2023年には生産台数が140~180両へと急増しました。さらに2024年には200両を超え、最大で300両に迫る勢いを見せています。当初、T-90Mは既存のT-90戦車の近代化改修版として位置づけられていましたが、現在の生産台数は既存のT-90の総数を上回っており、現在生産されているT-90Mは全て新造戦車となっています。

T-90Mは、次期主力戦車T-14アルマータの量産までの「つなぎ」として、T-14の要素を取り入れて開発された近代化モデルです。2022年時点の生産数が60両程度であったことを考えると、当初はそれほど大量生産する計画ではなかったと推測されます。しかし、T-14の量産がなかなか進まないこと、そしてウクライナ侵攻で多数の戦車を失ったことにより、ロシアはT-90Mの生産に大きく舵を切り、現在では陸軍の旗艦主力戦車としての役割をT-90Mが担う形となっています。

T-14アルマータの量産は戦後か

mod russia

主力戦車として3車種に絞られた中にT-14アルマータが含まれていることから、T-14の量産計画が完全に諦められたわけではないことが伺えます。T-14アルマータは、戦車大国ロシアが誇る「最強戦車」と称され、世界で初めて戦車に無人砲塔を採用するなど、「唯一の第4世代」と言われる最新鋭戦車です。2015年の軍事パレードで初登場し、次世代主力戦車として2,000両の生産が予定されていましたが、その量産化は度々遅延していました。

現在、20~30両のT-14が存在するとされていますが、これらは全てプロトタイプや試験車両と見られています。それでも、2023年4月にはウクライナ戦線に投入されたことが確認されました。しかし、その運用は限定的で、戦場での強度試験や後方からの間接射撃が主とされ、実際に戦闘する様子は確認されていません。同年9月には撤退していたと報じられています。

翌2024年3月には、UVZの親会社であるロステック社CEOが、T-14アルマータが他の戦車と比較してあまりにも高価すぎるため、ウクライナには配備されないと語り、T-14の量産は行われないという趣旨の発言をしました。実際、T-14のコストで2~3両のT-90Mが生産できることを考えると、戦力が消耗する現状において、少なくとも戦争中の量産は困難であると考えられます。T-14の主力戦車化は、戦後の世界を見越した長期的な戦略の一環である可能性が高いでしょう。

T-80戦車の再生産と近代化

mod russia

T-90Mと並び、現在のロシア軍の主力戦車と目されているのがT-80です。2023年9月、UVZのアレクサンダー・ポタポフ最高経営責任者は、2001年を最後に生産終了していたT-80主力戦車をゼロから再生産すると発表しました。同年末には、カルーガ(Kaluga)の工場でT-80に搭載するガスタービンエンジンGTD-1250の生産が再開されたと報じられています。

現在の主な取り組みとしては、まず倉庫に眠っている既存のT-80戦車に新造エンジンを搭載し、2017年に登場した近代化モデルであるT-80BVMへと改修しているとされています。T-80BVMは、Relikt爆発反応装甲、新しい射撃管制装置、主砲、装填装置を搭載し、大幅に性能が向上しています。

T-80BVMの完全な新造(スクラッチ生産)が始まったという報告はまだなく、年間で何両のT-80BVMが生産されるのかは不明です。しかし、古いT-80の改修については、2023年時点で180両が倉庫から引き出されたと報道されており、着実に近代化が進められています。

T-72戦車の終焉

mod russia

ウクライナ侵攻前に戦車部隊の主力であったT-72戦車は、これまで4,000両以上を失ったとされ、2024年後半にはほぼ枯渇したとされています。倉庫にはまだ数千両規模で残っているとされていますが、そのほとんどは状態が悪く、復活させるには多大なコストがかかるものばかりです。1973年にソ連軍に就役し、半世紀以上にわたって主力戦車としての役割を担ってきたT-72は、ウクライナ戦争によってその歴史に終止符が打たれることになるでしょう。

広告
最新情報をチェックしよう!