台湾は12月15日、米国から最初のM1A2Tエイブラムス戦車38両を受領した。中国による侵攻の危機が叫ばれる中、待望の近代化された戦車が配備される事になる。
台湾国防部は15日日曜遅くに米国からM1A2Tエイブラムス主力戦車38両、M88A2装甲回収車4両が台湾に到着した事を明らかにした。車両は港に到着後直ぐ、首都台北の南に位置する新竹の陸軍訓練基地に移送された。エイブラムスは台湾北部の治安を担当する第6軍部隊に配備される予定で、北部沿岸の防衛力を強化する。
納入は遅延
今回、納品された38両のM1A2Tエイブラムスは台湾が2019年に発注した108両の戦車の最初バッチになり、台湾としては30年ぶりの新戦車になる。台湾国防部は軍の近代化と、中国による侵略の脅威に備え、米国からM1A2エイブラムス戦車の調達を計画。2019年に当時のドナルド・トランプ米大統領との合意の下、13億4000万ドルの予算で108両のM1A2エイブラムスを調達する事に合意した。当初の予定では2022年に18両、2023年に18両、2024年に28両、2025年に30両、2026年に14両が納入される予定だった。しかし、新型コロナの影響により納入が遅延。そして、ウクライナとロシアの戦争が勃発した事で更に延期される。エイブラムスは新規生産しておらず、海外輸出分は米軍の余剰在庫を改修して輸出されるのだが、エイブラムスを改修できる工場は一つしかない。そこにウクライナ支援のための31両が割り込んだ事で台湾軍分のエイブラムスの改修は更に遅延した。今回の38両が納入されたが、残りについては2025年に42両、2026年に28両を受け取る予定になっており、完納スケジュールは当初通りになる予定だ。
第2世代から第3.5世代に
台湾陸軍の現在の主力戦車はM60のハイブリッドシャーシに、旧型のM48パットンの砲塔とM1エイブラムスの射撃管制システムを搭載した国産の第2.5世代主力戦車の「CM-11ブレイブタイガー」とベトナム戦争時代に開発されたアメリカの第2世代戦車「M60A3パットン」からなり、約1,000両を保有している。台湾の国力と領土の広さを考えれば十分な数だが、どちらも前世代モデルで主砲は105mmと第3世代の主力戦車の装甲に対しては威力不足だ。それに対し、中国人民解放軍の主力戦車は125mm砲、複合装甲・ERAを備えた第3世代の99式戦車、最新の射撃管制装置を備える3.5世代の99A式戦車と戦車性能の差は歴然だった。M1A2Tエイブラムスは中国戦車を超える能力がある。
M1A2Tエイブラムス
M1A2Tエイブラムスは、エイブラムスのM1A2 SEPv2をカスタマイズしたモデルであり、台湾軍の要件に合わせてカスタマイズされている。エイブラムス戦車のM1A2 SEP(システム強化パッケージ)バージョンは、生存性を高めるための一連の強化を備えた新しい砲塔を備え、砲塔上にはM153 CROWS II 遠隔操作兵器ステーション(RWS)を搭載、1500馬力のAGT-1500ガスタービンエンジン、850mmの複合装甲を備え、戦闘効率を上げるデジタル戦場管理システムが装備されている。輸出用であるため、劣化ウラン装甲は取り除かれている。
エイブラムス戦車は台湾にマッチするのか?
M1エイブラムス戦車は、現在運用されている戦車の中で最も重い戦車の 1 つで、M1A2 SEPv2の重量は64tを超える。この戦車の重量により、通行できる橋梁は限られ、また、回収や輸送が困難になる可能性があり、特定の地形には適さないと言われている。台湾のような平地が少なく山岳地帯が多い島嶼国にはエイブラムスは重すぎ大きすぎ、 重量が機動性と展開を制限するという意見は多い。その上、台湾の雨季は長く、台風も多く到来し、土壌は緩む。環境が似ている日本や韓国のように50トン代の比較的軽量な戦車、機動力が高い装輪戦車を購入すべきという意見は多い。実際、今の主力戦車であるCM-11、M60A3は共に50トンほどだ。ただ、日本は戦車といった攻撃兵器を海外に輸出する事はできず、韓国はK2ブラックパンサーの輸出を増やしたいところだが、中国との関係を考えると台湾には輸出できない。他の諸外国も今や世界2位の経済大国である中国との関係を考え、台湾への武器輸出には及び腰だ。中国に強気に出れるのは対立する米国のみであり、自ずと選択肢は限られる。
台湾はエイブラムス以外にも40両のM109A6パラディン155mm自走榴弾砲を米国に発注している。しかし、これもウクライナの戦争の影響で納入は遅延。当初、2023年を予定していたが、2026年に延期されている。それもあって、米国は直ぐに納入可能な高機動ロケットシステムM142 HIMARSの販売を台湾に打診。2023年に合意し、29台を発注、最初の11台が今年11月に納入されている。HIMARSから発射可能な射程300kmの短距離弾道ミサイルATACMSも受け取っており、これは台湾から中国本土を射程に納める。HIMARSは装輪式で機動力が高い、台湾の環境に適した兵器といえる。台湾は中国に対し、強硬姿勢をとるトランプ大統領が就任することで、米国から更なる兵器の購入を計画しているとされる。