ウクライナに提供が決定しているアメリカの主力戦車M1A2エイブラムス。「最強の矛と盾」を持つと評される同戦車ですが、ウクライナに提供されるのは米軍が使用する劣化ウランの装甲と砲弾を持つ車両ではなく、モンキーモデルになります。
米軍のエイブラムス戦車は劣化ウラン装甲
現在、米陸軍で使用するM1エイブラムス戦車では劣化ウランを使用した装甲と砲弾が使用されています。ウランは自然界で最も密度が濃い物質で、その比重は鉄の2.5倍、鉛の1.7倍とされ、非常に強固な物質です。米軍はそれを砲弾と装甲に利用することで最強の”矛”と”盾”を手に入れています。その甲斐あってか、エイブラムスの損失はほぼ稀です。1991年の湾岸戦争では9両のM1エイブラムスが破壊されていますが、その内7両はフレンドリーファイアで、2両は自爆です。フレンドリーファイアの内5両はエイブラムスの主砲44口径120mm滑腔砲の劣化ウラン徹甲弾（APFSDS）によるもので図らずも味方相手に最強の”矛”を実証しています。
アメリカはウクライナへの軍事支援としてエイブラムス戦車31両の提供を発表した。しかも、古いM1A1ではなく、新しいM1A2を送るとのこと。ただ、在庫のM1A1をこれからアップグレードするので、数か月の時間が掛かる見込みだ。[…]
海外版はモンキーモデル
しかし、これら劣化ウランを用いた兵器は米エネルギー省の管轄下にあり、輸出規制の対象となっているため、国外に輸出することができません。また、この劣化ウランを含む複合装甲は「Green Grape（グリーングレープ）」という最高機密プログラムで保護されており、同盟国といえど、その機密情報にアクセスすることはできません。エイブラムスは米国以外だと、オーストラリア、サウジアラビア、ポーランド、エジプト、イラクが運用。ポーランド、台湾がこれからの運用を予定していますが、これら海外に輸出されたM1エイブラムスは劣化ウラン装甲は搭載されておらず、劣化ウラン弾も使用できません。アメリカには数千台のエイブラムスの在庫を保有していますが、国外に輸出される際は劣化ウラン装甲を取り除いた形で輸出されています。そのため、米軍で使用しているエイブラムスより装甲も攻撃力も弱く、モンキーモデルと言われる理由です。
とはいえ、著しく防御力が低下するのかいうというとそういうわけではありません。輸出版では劣化ウランの代わりにタングステンを含んだ複合装甲を搭載しています。実はタングステンの比重も鉄の2.5倍、鉛の1.7倍と劣化ウランと変わらいない強度を持っています。ドイツのレオパルド2は装甲や砲弾にタングステンを利用しています。では、タングステンでいいのではと思うかもしれませんが、劣化ウランと比べると砕けやすく、劣化ウラン装甲には劣ります。ただ、劣化ウランも放射性物質を含んでおり、燃焼時に乗員が汚染させるリスクがあり、実際、湾岸戦争では兵士が放射能にさらされて体調を崩すなど社会問題になっています。またタングステンはレアメタルと言われる希少価値が高い鉱山物質で最大の産出国は中国です。それもあり、手に入りずらい鉱物で多くは使用できません。
改修に時間がかかる
装甲が機密扱い、劣化ウランと放射性物質を扱う性質上、現在、エイブラムスの改修ができるのはオハイオ州にある米国唯一の戦車工場であるGeneral Dynamics Land Systems（GDLS）のリマ戦車工場のみです。その月産能力は10~両程です。エイブラムスの新規製造は終了しており、既存の戦車の改修での生産能力です。つまり、ウクライナに提供する31両の戦車の提供には少なくとも3カ月擁する計算になりますが、ポーランドから300両以上、台湾からは100両以上と既に多くの注文が入っており、既にラインはいっぱいであり、ポーランドも台湾もおかれた状況を考えれば、後回しにはできません。そのため、ウクライナ分の改修は年内いっぱいかかるのではは言われていますが、優先順位を考えればウクライナであり、その点は両国が妥協する可能性があります。もう一つの方法としてアメリカは既にエイブラムスを運用しているサウジアラビア、エジプトからウクライナ向けの車両を融通できないかと模索していますが、両国と共にロシアとは良好な関係にあり、交渉は簡単ではありません。
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