ドローンの脅威を前に米陸軍は戦車戦略の大幅な転換を行う

US Army

現代戦における技術革新と無人航空機(ドローン)の脅威増大を受け、アメリカ陸軍は戦車戦略の抜本的な再検討を発表した。従来、戦車が担ってきた最前線での突破口形成という役割は、今後は後方からの火力支援へと移行する可能性が示唆されている。

Army secretary says US tanks will have to hang back to avoid getting killed by cheap drones

アメリカメディアの報道によれば、ダニエル・ドリスコル米国陸軍長官は2025年5月6日に配信されたポッドキャスト番組「ウォー・オン・ザ・ロックス」において、現代戦における著しい変化を踏まえ、主力戦車であるM1エイブラムスの運用方法を大幅に転換する意向である旨を発表した。ドリスコル長官は、戦車が依然として重要な戦力であると認識を示しつつも、その運用方法を再考する必要性を強調した。その根拠として、ウクライナにおける戦況を鑑み、戦車が戦場で「可視化されずに活動することは不可能である」との見解を示し、戦場のセンサー密度及び両陣営の状況把握能力の向上により、戦車を「従来のように隊列の最前線に進出させることが困難な状況が生じている」と指摘した。その理由として、「極めて低廉なドローンが戦車を無力化し得る」点を挙げた。そして、長官は「一層の効率化が不可欠である」と述べ、「空中からの隠蔽に注力しなければならない」と強調した。長官の発言は、無人システムが常時戦場を監視しているという他の陸軍指導者たちの憂慮を如実に反映している。

長官は対策として、戦車は攻撃の先頭に立つのではなく、より安全かつ防御された位置からの活動を提案した。陸軍は戦車部隊に初期攻撃を指揮する無人システムの統合を検討している。無人戦闘車や無人機・ドローンといった無人システムが先行して偵察、脅威排除を行い、戦車はより安全な距離から侵入し、持続的な火力支援を提供する戦術が検討されている。この動きは単なる局地的な戦術に留まらず、ドローン主導の戦争の現実に対応した戦略全体の再編を示唆している。

戦車は第一次世界大戦において初めて登場して以来、強力な火力、堅牢な装甲、そして優れた機動力を活かし、地上戦における機動打撃力の要として、戦場の突破口を切り開いてきた。しかしながら、ウクライナ紛争における戦況は、これまでの戦車の役割とは異なる様相を呈している。当初、世界有数の陸軍力を誇るロシア軍が圧倒的に優位であると目されていたウクライナ戦争は、ウクライナ軍がロシア軍機甲部隊の動向を無人機による偵察で詳細に把握し、待ち伏せからの携行式対戦車ミサイル攻撃によってこれを撃退するという展開を見せた。その後、ウクライナ軍は民生用ドローンを改良し、迫撃砲弾や手榴弾の投下を可能とした。これにより、戦車の最も脆弱な砲塔上部への爆撃や、ハッチへの爆弾投下などを行い、戦車を無力化した。ロシア軍が装甲を追加するなどの対策を講じると、ウクライナ軍は対戦車弾や高性能爆薬を搭載した自爆ドローンを開発した。さらに、一人称視点での高速飛行が可能なFPVドローンも投入し、戦車の脆弱な箇所を精密に攻撃し、無力化した。ロシア軍もこれに追随する形でドローン戦術を採用するに至った。

ウクライナに供与されたレオパルト2やM1エイブラムスといった防護力に優れると評されていた戦車でさえ、ロシア軍のドローンによって多数が破壊されている状況が確認され、現代のドローン戦術の前では西側諸国の戦車も有効な対抗手段を持たないことが明らかになった。オープンソースの分析機関「Oryx」がウクライナにおける両軍の損失を分析した結果によれば、ロシア軍は少なくとも3,900両、ウクライナ軍は1,100両以上の戦車を失っている。そして、ロシア軍の戦車損失の4割から6割はドローンによるものであるという分析結果も存在する。

新エイブラムスの開発、M10ブッカーの配備計画中止

最新鋭戦闘車M10 Bookerが米陸軍に就役
M10 Booker

米陸軍は、M1A2エイブラムス主力戦車が現代の戦場において過大な損害を被る可能性を鑑み、M1A2エイブラムス戦車のアップグレード計画を中止し、新たに「M1E3」戦車の開発に注力している。この新型戦車は、軽量化、モジュラー設計、オープンアーキテクチャの採用を通じて、迅速な技術更新と高度な生存性を実現することを目標としている。初期運用は2030年代初頭に予定されている。また、配備を予定していた軽量戦車タイプのM10ブッカー戦闘装甲車の配備計画は、本年5月に中止された。ブッカーは、軽量かつ空中投下可能で、迅速に展開可能な火力支援車両として設計されたが、重量増加によりその特徴を失い、戦車に近い形態となっていた。無人機や精密誘導兵器の重要性が増す中、ブッカーのような中途半端な装甲車両の必要性が疑問視され、コストの増大や整備契約の課題など、複数の要因が重なり、計画は中止された。しかしながら、既に80両が陸軍に納入されており、これらについては引き続き配備するのか、国外への売却、または保管などの選択肢が検討されている。

戦車は今後もその存在意義を失うことはないと考えられるが、その役割は大きく変容することが予想される。戦車には高度なセンサー、光学機器、通信機器が搭載され、地上における情報収集拠点として戦場を監視し、無人車両やドローンを統括する中枢としての機能を果たすようになるだろう。ドイツのラインメタル社が開発したKF-51パンター戦車は、装填手を必要としないが、4人乗りであり、ドローンのオペレーター席、または随伴する無人戦闘車のオペレーター席が設けられている。そして、戦車は比較的安全な場所から無人システムを操作しつつ、長距離支援攻撃を実行する。戦車は従来のような「陸の王者」という位置付けではなくなるであろう。

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