
アメリカ陸軍は主力戦車であるM1エイブラムスの次期バージョンの開発を早めるように指示した。米陸軍は2023年9月にM1E3エイブラムス戦車の開発を発表、当初の計画では2030年代に初期作戦能力を取得する予定になっている。
ディフェンス・ニュースによるとランディ・ジョージ米陸軍参謀総長は、M1エイブラムス戦車の近代化計画において通常の防衛調達プロセスで無駄に時間を浪費させるのはなく、より迅速に効率的に行動して優れたエイブラムス戦車を手に入れるよう陸軍と産業界のパートナーに指示したという。ジョージ参謀総長は18か月前の就任直後に開かれた地上戦闘システム計画執行局との会議で、新型戦車のプロトタイプ初号機が建造されるまでに65カ月かかると告げられたという。つまり、5年以上先です。陸軍の開発部門は命令を受け、当初の計画の3分の1にスケジュールを短縮し、24~30ヶ月以内の建造を目指しす。
陸軍の最高技術責任者であるアレックス・ミラー博士は「”ペンタゴン・ウォーズ”にはなりたくない」と述べている。『ペンタゴン・ウォーズ』とはブラッドレー歩兵戦闘車の開発時に起きた、軍内部のゴタゴタを描いたコメディドラマだ。M2ブラッドレーの開発は非常に難航。コスト高騰、設計変更、政治的・戦略的な要件の変化などで何度も計画が見直された。ブラッドレーの構想は1960年前半に始まったが、実質的な技術開発・試作フェーズが始まったのは1972年、そして、生産開始は1981年と17年の開発期間を要した。
陸軍は長年、調達プロセスに従った開発プロジェクトを進めてきた。しかし、承認されてからの研究開発期間はかなり長く、技術的に成熟するまでには10年かかるとされる。これは過去においては合理的であった。なぜなら、未熟な技術のまま量産配備されれば、訓練や戦場で兵士を危険にさらし、返って投資の無駄が増大したりするからである。「関係部門が、発生する可能性のあるすべての潜在的リスクを見つけて解決できるように、研究開発期間は長くなった。」とミラー博士は述べている。だが、調達プロセスが策定された過去と今では全く状況が違う。科学技術の進歩は目覚ましく、戦場は急速に変化している。10年前に小型ドローンが戦場で縦横無尽に飛び回り、戦車を破壊するのを想像できた人が何人いただろうか。昔のようなプロセスで進めていては、完成する頃には戦争の脅威は既に別の物に変わっている可能性がある。「あらゆる環境とあらゆる技術を熟知していなければ、今日の決定は30年後も正しいとは言えない。もはや、そのような判断は通用しない」とミラー氏は述べており、迅速な開発と生産、需要に応じた迅速な変化が今後は重要になってくる。現在はAIやデジタル化により、開発期間が短縮できると同時に、モジュール化、ソフトウェア化する事によってアップグレードが容易になり、将来の脅威の変化に対応可能な兵器づくりが容易になっている。
米陸軍は2023年9月、開発を進めていたM1A2エイブラムス主力戦車近代化改修計画”SEPv4”を中止し、戦場での機動性と生存性を高めるためのより大規模な近代化改修計画”M1E3”を進める声明を発表した。1980年代に米陸軍に就役したM1エイブラムスはこれまでM1A1、M1A2と二度の大規模な近代化が行われ、武装、防御、電子機器がアップグレードされてきた。1990年代に登場したM1A2では新規車両は生産されず、基本、既存の車両を改修する形で行われ、これまでSepV1、V2、V3と近代化が行われ、様々な機器が追加された。しかし、改修する度に重量は増加。初期のM1エイブラムスの重量は57tだが、最新版のM1A3SEPv3は66.8tと約10tも増えた。性能は上がったが兵站の負担が増し、機動力も損なう形になった。
M1E3エイブラムス
GDLSアメリカ陸軍は6日水曜、現在、開発を進めているM1A2エイブラムス主力戦車近代化改修計画”SEPv4”を中止し、戦場での機動性と生存性を高めるためのより大規模な近代化改修計画”M1E3”を進める声明を発表した。[a[…]
ウクライナでドローンや精密対戦車兵器によって主力戦車が次々と破壊される様子を目の当たりにし、2040年以降の戦場で直面するであろう課題に焦点を当てた抜本的な改良を行う事を決定。2024年春、エイブラムス戦車を開発生産するジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ社(GDLS)に新型エイブラムス戦車「M1E3」の予備設計を発注。M1E3では現在のSEPv3から10t以上削減する軽量化を最優先課題とし、ハイブリッド動力システムや自動装填装置を採用する事が決定しているが、それ以外の機能についてはまだ不明な点が多い。
エイブラムスX

GDLSは次世代エイブラムスである「エイブラムスX」を2022年10月に発表している。Xでは砲塔が一新され、無人砲塔化、自動装填を搭載。砲塔部分にハッチはなく、乗員は全員車体下部に収容され、生存性が向上。AIが採用され、自律機能が付与、乗員のタスクは軽減される上に自動化されることで射撃速度や精度など攻撃能力は向上。射撃管制装置も新しくなり、燃費も50%削減される。これはGDLS独自のコンセプトで陸軍からの要求にものづくものではないが、いわゆる第4世代戦車の定義といわれる機能を一通り揃えており、M1E3はこれに近い機能が盛りこまれるのではと推測される。