ウクライナ軍のM1エイブラムス戦車、損失かさみ前線から撤退

ウクライナ軍のM1エイブラムス戦車、損失かさみ前線から撤退

アメリカからウクライナ軍に供与され、今年2月に前線への投入が確認されたM1A1エイブラムス戦車。しかし、現在、エイブラムスは前線から撤退している事が明らかになりました。

AP通信の報道によれば、2人の米軍高官は、ウクライナ軍が一時的に「M1A1エイブラムス戦車の使用を控えた」と明らかにしました。高官は、エイブラムス戦車部隊は戦闘への参加を一時的に停止し、現在は前線から離れたところに駐留していると説明しています。その主な理由はエイブラムスの損失拡大によるものです。エイブラムスは前線投入から僅か1か月で少なくとも5両の損失が確認されており、これらの多くはロシア軍の自爆ドローンによってもたらされたもので、エイブラムスは今のウクライナの戦線に対応しきれておらず、前線で期待された戦果を挙げられていません。

2023年1月にアメリカがウクライナへの供与を発表した31両のM1A1エイブラムス戦車は今年1月、ようやくウクライナ軍の前線部隊である第47独立機械化旅団に配備されます。翌2月初めには実戦投入が確認され、ウクライナ東部の激戦地アヴディウカの前線で戦闘を行う様子が確認されました。劣勢が続く同地域での救世主になることが期待されましたが、火力と兵力に劣るウクライナ軍に十数両の戦車では戦局を変える事はできず、配備後まもなくしてアウディウカは陥落。ウクライナ軍は2月中旬に同地域から撤退します。その後のロシア軍の進軍を防ぐため、エイブラムスは引き続き前線に配備され戦闘を続けますが、2月26日に最初の損失が確認されます。それから、1か月も経たない内に4両の損失が確認され、現状、少なくとも5両のM1A1エイブラムスの損失が確認されています。

エイブラムスの損失の多くはロシア軍の無人偵察機、自爆ドローンによってもたらされました。冬場で草木もかれ、砲撃によってことごとく木々や建物が破壊されたウクライナの平地で偵察ドローンによる戦車の発見は容易であり、西側支援の象徴でもある、アメリカ製のエイブラムス戦車はロシア軍の優先目標でありました。そして、発見されたエイブラムスはロシア軍の自爆ドローンによって攻撃されます。M1A1エイブラム戦車の価格は約1,000万ドルとされていますが、僅か10万ドル前後のロシアの自爆ドローン「Lancet」などによって無効化されてしまいます。強固なエイブラムスを一度で完全に破壊することは難しく、大抵のケースでは乗員は無事で修理可能な損傷で済みますが、自爆ドローンで戦闘継続不可能な状態にさせる事は可能です。前線では損傷した車両を回収する事は不可能であり、ウクライナ軍は車両を放棄、放棄された車両に追加攻撃を行えば、完全に破壊することも可能です。

無人偵察機、自爆ドローンによる攻撃はウクライナ軍の十八番でしたが、ロシア軍も確立しつつあり、ロシア軍は今年に入って、ドローンを駆使してこれまで破壊記録がなかった高機動ロケットシステムHIMARSやパトリオット防空ミサイルの破壊に成功しています。

M1A1ライブラムスの前線からの撤退は自爆ドローンに対し、脆弱、無防備である事が露呈したためとされ、自爆ドローン対策のコープケージやスラット装甲を新たに追加するためとされています。ウクライナ軍のエイブラムスには履帯を護るためシャーシ両面に爆発反応装甲が追加されていましたが、上部は無防備でした。ただ、コープケージで全てが解決できるわけではありません。実際、ロシア軍はドローン対策にだいぶ前から戦車にコープケージを追加していましたが、ウクライナ軍は一人称視点の小回りが利くFPVドローンなどを使用し、装甲の隙間を狙って攻撃を行っています。遂にはロシア軍は自爆ドローン対策のために戦車の360度を装甲版で覆うという奇策に出て、いたちごっこな状態です。ただでさえ火力不足なウクライナ軍にとって、高い火力と防護力を誇るエイブラムスが前線から居なくなったのは痛手です。

※エイブラムスの撤退という報道について第47独立機械化旅団は否定しています。

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