ウクライナには数百両の戦車が軍事支援として提供されているが、それらは全て旧ソ連製の戦車だ。ゼレンスキー大統領は西側の主力戦車を求めているが、それに対し、アメリカやNATOは一向に首を縦に振らない。それはなぜなのだろう。
アメリカを始めとしたNATOはウクライナのゼレンスキーの求めに応じ、これまで多くの武器を支援してきた。攻勢に転じた今、特に求めているのが、戦車、自走砲といった重火器だ。その求めに応じ、ドイツはPzh2000自走砲、アメリカはHIMARSといった近代的な兵器を提供している。それに対し、戦車についてはポーランド、スロバキア、スロベニアなどから送られたソ連製の旧式のT-72戦車になる。T-72は1971年にソビエト連邦が開発した2.5世代戦車。未だ、多くの国で現役で、その多くは近代化改修が施され、第三世代戦車と同等の能力を有しているものも多いが、その性能は西側のレオパルト2やM1A2エイブラムス、ルクレールと比べれば見劣りする。そして、ウクライナは元よりソ連製戦車の設計製造、そして運用を行ってきた歴史から、自分たちの戦車の弱点を熟知知ている。それは敵であるロシアも一緒だ。そのため、防護力、精度に優れる西側の戦車を欲しがっている。しかし、NATOにはそれを与えることができない事情がある。
自分たちの戦車がやられてほしくない
The best #Turkish #Leopard tanks destroyed in Syria!
— Andreas Mountzouroulias 🇬🇷 (@andreasmoun) March 13, 2020
According to sources, during the two-week clashes between the #Turkish forces and the #Syrian army, at least four of the best Turkish Leopard heavy tanks were destroyed. #SAA #Idlib #Erdogan #Assad #Syria #Putin pic.twitter.com/1RCmiba6H7
NATOが一番恐れているのが、自軍の主力戦車がやられる姿が世界に晒されることだとされている。此度の戦争では両軍の戦闘車両が派手に爆発する姿がSNSに投稿されている。これがきっかけでロシアは自国の兵器の評価をことごとく落としており、ロシア製兵器はカタログスペック通りの性能はないと揶揄されている。おそらく今後、ロシア製兵器を積極的に購入する国は現れないだろう。
NATOも自国の主力戦車を投入してこうなることを恐れているとされる。アメリカのM1エイブラムス戦車はイラク軍にも配備されているが、シリア内戦に投入された際はイスラム国の対戦車ロケット、IED(即席仕掛け爆弾)によって破壊、または鹵獲される事態が起きており、その様子はSNSにも公開された。レオパルト2においてもトルコ軍のレオパルト2A4がシリアで対戦車ミサイルの攻撃で派手に爆発する様子が映し出されている。エイブラムスは湾岸戦争でイラク軍のT-72戦車の前に圧倒的な戦果を挙げたが、T-80やT-90といった比較的新しいロシア戦車と真っ向勝負をしたことがない。米軍のエイブラムスは戦果ベースでは最強と言われているが空軍の支援があってこそで、それが少ないウクライナでロシア戦車と真っ向勝負した時、同様の戦果を残せるかは不明だ。アメリカは最近ポーランド、台湾にM1A2エイブラムスを販売している。もし、ウクライナでエイブラムスが破壊される姿がとらえられるものなら、今後の武器売買に影響を及ぼす可能性がある。
自走砲やHIMARSは長距離間接攻撃が主で直接的にロシア軍と対峙することはほぼ無いので提供されている。
互換性がない
T-72、T-80、T-90といったソ連製戦車の主砲の口径は125mm、それに対し、レオパルト2、エイブラムスといったNATOの標準口径は120mmと口径が異なるため、弾薬に共通性はない。ただでさえ、ソ連製、西側の兵器が混在する今、戦車まで東西の兵器が入り乱れると支援、兵站が更に複雑になる。更にソ連製戦車で当たり前の自動装填装置も西側の戦車には付いていないので装填手が必要と兵員の訓練コストもかさむ。
ウクライナ軍はソ連製の戦車に熟知しており、ウクライナを支援する隣国ポーランド、スロバキアもソ連製戦車を熟知。メンテナンスからスペアパーツ、砲弾と一貫してサポートしている。それに対し、レオパルト2やエイブラムスといった西側の戦車の運用経験はウクライナ軍、周辺国にもない。メンテナンス要員やが少ないので戦場で何かあっても直ぐには対応できなく、サプライチェーンの構築には時間もコストもかかる。
重い
T-72は標準で重量41.5t、爆発反応装甲など装備を追加しても重量は40t代に収まる。T-80も42.5tと同様だ。それに対し、レオパルト2はA4で55.15t、最新のA7では67tにもなる。エイブラムスは初代のM1で54t、M1A2では62tにもなり、ソ連製戦車よりも20tも重い。そのため、ウクライナの道路や橋を通過できるかは不透明だ。また、これまで戦ってきた土地は乾燥した中東だが、ウクライナの黒色の土壌は雨や雪が降ると水を含み泥濘化、重い戦車の脚を止める。ソ連製戦車と同じスピード行軍できるか分からず、かえって部隊の進軍スピードが遅くなる可能性もある。
唯一西側の戦車としてはドイツが保管していた20両のレオパルト1が提供される予定だが、1950年代に開発された第2世代戦車でウクライナで破壊されても支障はない。今後の戦局次第では西側の戦車が提供されることはあるのだろうか。